相談事例

1、お子さんがいないケース

Aさんご夫婦(60代)は共働きで、2人の資金で現在の住まいを購入されました。
お二人ともまだ50代ですが、お二人にはお子さんが居ない為、夫婦で築いた財産を相続後に義理の弟や妹と遺産分割協議しなければならないのは嫌だと相談にみえました。Aさん夫婦はともに、長男、長女で、それぞれ兄弟がいます。夫婦2人で築いた財産を法律で決められているからといって、自分の弟妹ならまだいいのですが、義理の弟妹に相続となると、そもそも他人ですからできれば避けたいのが本心です。
そこで、互いに「全財産を配偶者に相続させる」とした遺言書を作成しました。これで相続の時に相手の弟妹に気を遣う必要がなくなり、気持ちが楽になりました。

※このケースの大事な点

子どもがいないので、夫婦どちらかが亡くなったときの相続人は、配偶者と親あるいは兄弟姉妹となります。遺言書がないと配偶者だからといっても相手の財産の全部を相続することはできません。もし、遺言があれば、配偶者の兄弟姉妹と話し合うことなく相続の手続きができます。兄弟姉妹には遺留分の請求権がないのでもめることは少なくなります。

2、離婚されたケース

Bさん(30代)は、先妻と離婚し、2人の子どもを自分が引き取って再婚しました。後妻との間にも子どもに恵まれ、いまは家族5人で暮らしています。まだまだ若いとは思っていますが、急な病気や事故などあるかもしれません。Bさんは自分の意志を残しておきたいと考えました。後妻を信用しているものの、義理の親子関係は複雑で不安もあります。
そこで、遺言によって、財産分けを決めておくことで争いが防げるので、遺言書を作成し、そこには、全財産を後妻と先妻の子たちで等分に分けるようにしました。また、遺言を執行するときに子どもが未成年である場合は、後見人が必要となるため、Bさんの意志を理解している実妹を後見人とする内容も盛り込みました。

※このケースの大事な点

 家族関係が複雑で、少しでも不安がある場合には、早めに遺言書を用意しておくと安心です。先妻の子、後妻、後妻の子の立場の違いは状況が変わるとこじれることも考えられます。不動産の処分を遺言しておくことで不動産にしばられることなく、それぞれがその後の人生を送ることができます。また、遺言を執行するときに、子どもが未成年だった場合には後見人が必要となります。後見人に信頼できる者を指定しておくと、より安心できると言えます。

3、行方不明のケース

Cさん(60代)には、息子さんが2人います。Cさんが定年を迎えて間のない頃に奥様が亡くなった為、現在は一番近くに住む次男夫婦と同居しています。長男とは音信不通で20年以上も行方不明であり、このままでは相続が大変になるのではないかと心配になりました。いつか帰ってくるのではないかと思い、失踪宣言はしていません。しかし、自分の相続で次男夫婦が長男を捜したり、家庭裁判所に手続きに行ったりと難儀するだろうと公正証書を作成することにしました。これで手続きが簡単にできると次男夫婦も安心できたようです。

※このケースの大事な点

 相続人の中に行方不明者がいると、分割協議ができません。家庭裁判所に財産管理人を選任してもらう必要が出てきます。民法の失踪宣言により、失踪者は死亡したものとしてそれ以後の手続きを進めることが可能となりますが、Cさんは長男がいつか帰ってくるという思いがあって失踪宣言する決断ができません。分割協議しなくてもいいように、長男以外の相続人に財産分与する内容の遺言書を作成することで、長男不在のまま円滑に相続手続きができます。将来長男が返ってきた場合、遺言により遺留分が侵害されたとして、遺留分減殺請求することができます。

4、遺贈するケース

Dさん(70代)は、一度も結婚はされず、現在一人暮らしです。故郷の両親、兄もすでに亡くなりました。身内といえるのは亡兄の息子2人だけです。しかし、その甥っ子たちとは両親の葬儀や兄の葬儀の時に会った程度で、親しく言葉を交わしたことはありません。日ごろの交流はなく、どこに住んでいるかもわかりません。甥っ子たちには、とても自分の老後を頼んだり、財産やお墓のことを託せる心境にはなれないのが本音です。それよりもお世話になった方や親切にしてくれた方に相続してもらいたいのです。相続人でない人に財産を寄贈する場合は、手続きする際に、寄贈される人の住民票が必要になります。事前に自分の意思を伝えて了解してもらい、遺言書作成に至りました。

※このケースの大事な点

  財産は相続人以外の人に渡すことができません。しかし、遺言があれば他人でも財産を受け取れ、税金もかからないこともあります。また、遺贈する遺言はただ書いておくよりも受贈者に意思を伝えて了承してもらうことが大切です。生きているあいだに、意思を伝えることは、お互いの思いを確認することもでき、価値があると言えます。

5、分与するケース

Fさん(70代)には長女と、長男の2人の子どもいます。長女は結婚しましたが、実家の近くに住んでおり、妻に先立たれたFさんにとって心強い存在です。しかし、長男は結婚後、親とは同居しないと離れて暮らしています。
長男は自宅を購入する為に、資金を援助してもらいたいと言ってきたので、長男には相続財産の前倒しとして自宅の購入資金を贈与し、自宅は長女に相続させる気持ちが固まりました。心配なのは相続の時に、長男が多くの財産を要求して長女ともめないかということです。長男の嫁にも「相続の時には相応の財産はもらいたい」と言われたこともあり、公正証書遺言を作成することにしました。内容は、長男の相続分は預金の一部と株券だけとし、残りはすべて長女へ相続させるとしました。

※このケースの大事な点

長男には家の購入資金として、すでに現金を渡してあるのに相続でも多く要求してくるかもしれません。また、贈与の相続財産の前倒しとする場合は、本人にも伝えて遺言書に明記しておくとよいでしょう。相続前から財産をもらいたいと主張している者がいる場合は、いざ相続になるとさらに要求してくることがあるので絶対必要です。
遺言があると遺留分は法定割合の半分。遺言がない場合は法定割合が基準となります。Fさんは長男の遺留分を計算し、相続させる預金額を決めたので、相続になってもめることはないでしょう。

6、老後を託すケース

Gさん(60代)は、3人の娘を嫁がせてから、夫と2人で暮らしていましたが、夫が亡くなり、現在は一人暮らしをしています。夫が亡くなった時に、土地を相続しており、土地の半分が自宅、もう半分は貸し駐車場にしています。節税対策として不動産会社に土地を有効利用してアパート経営を進められましたが、財産評価をしたところ相続税がかかる額ではなく、節税対策はしませんでした。
娘が3人居ること、同居をしていないこと、誰が不動産を相続するか、お墓を守るか等を決めていかないと争いに発展する要素が多いのです。
改めて3人と話し合うことで遺言書を作成しました。内容は、面倒をみてくれる長女に相続させる不動産と預金を多めにし、次女と三女は当分の額としました。

※このケースの大事な点

 相続税には基礎控除があります。財産評価をして、評価額がわかれば税金がかかるかど  うか知ることができます。(今回のケースは節税対策が不要)
3人の娘全員が嫁いでいるために実家を継ぐ者が決まらない。誰がお墓を守ってくれるのかもわからないときは、家族の意思を確認しておくと安心できます。
節税対策として孫を養子にすると、基礎控除が増え分割もできます。しかし、ほかの相続人と争ったり、姓が変わるなど、孫の人生に影響するため慎重な判断が必要です。